新幹線が苦手な自閉症の息子と念願の動物園に行きたい
私には知的障害と自閉症の診断を受けている支援級4年生の息子がいます。
息子は動物や昆虫などの生き物が大好きです。
そんな息子がずっと行きたがっていた場所が、ハシビロコウのいる上野動物園でした。
けれど、私たち親子にとって大きな壁になっていたのが新幹線です。
息子は小学1年生の頃から新幹線に乗ると酔いやすくなり、吐いてしまった経験から、「新幹線は乗りたくない」と話すようになっていました。
私は、息子の「行きたい」を新幹線が苦手だからという理由だけで諦めたくありませんでした。
そこで、におい対策や酔い止め、見通しを持てるスケジュールを用意し、まずは一駅だけ新幹線に乗るスモールステップから始めました。
前回の挑戦では、気持ち悪くなることなく一駅乗ることができ、帰りには息子から
「新幹線乗るよ」
という言葉まで出ました。
「上野動物園に行きたい」
息子の言葉を今度こそ叶えてあげたい。
小さな成功体験を重ねながら準備を続け、ついに私たちは上野動物園へ向かうことにしました。

頑張って新幹線に乗ったのにゲリラ豪雨で大癇癪
長時間の新幹線を乗り越え、念願だった上野動物園に到着。
ところが、楽しい一日になるはずだった動物園で、予想もしなかった出来事が起こりました。
突然のゲリラ豪雨です。
息子は大粒の雨を見た途端、一気に不安が高まりました。
「新幹線頑張ったのになんで〜!」
「雨で濡れちゃう〜!」
雨雲レーダーを見たいと言うのでスマホで見せると、真っ赤な雨雲レーダーの画像を見てさらに不安が大きくなり、
「夜になっちゃう〜!」
「おうち帰る〜!」
と泣きながら怒り始めました。
息子にとって、大雨の中で屋外にいて雨宿りをする経験はほとんどありません。
しかも、新幹線に長時間乗るという大きな挑戦をした直後です。
「せっかくここまで来たのに」
「やっぱり無理をさせてしまったのかな」
私自身も焦りました。
けれど、雨を止めることも、起きてしまった出来事をなかったことにすることもできません。
ここからどう関わるかを考えることにしました。

失敗を避けるより立ち直れる経験を自閉症の息子に手渡したい
以前の私は、息子が癇癪を起こしそうな出来事をできるだけ避けたいと思っていました。
失敗させたくない。
つらい思いをさせたくない。
できるだけ穏やかに過ごさせてあげたい。
もちろん、自閉症の子が強いストレス状態にある時には、まず安心できる環境を整えることが大切です。
一方で、子どもの成長について学ぶ中で、心に残った考え方がありました。
子どもに必要なのは失敗を経験しないことではなく、困った出来事が起きたときに立ち直る経験を重ねること。
この「回復体験」が大事だということです。
夫からも、「いい経験にすればいいじゃん」と言われました。
確かに、これから先も突然の雨や予定変更など、予想外の出来事を全部避けることはできません。
だったら今回のゲリラ豪雨も、ただ「大変だった旅行」で終わらせるのではなく、
雨が降って大変だったけれど最後は大丈夫だった
という経験に変えたいと思いました。

自閉症の息子が大癇癪から切り替えられたホームカウンセリング
じゃあ、目の前で泣きながら怒っている息子にどう関わるか。
私が使ったのが、発達科学コミュニケーションで学んだ「ホームカウンセリング」です。
ホームカウンセリングでは、すぐに解決策を伝えるのではなく、
①保留→②受容→③理解→④共感
という4ステップで子どもの気持ちを整理していきます。
強い癇癪が起きている時は、不安や怒りでいっぱいになり、「こうしたらいいんじゃない?」という提案をすぐに受け入れることが難しいからです。
実際、私も初めは少し提案してみたものの、拒否感が強く、受け入れられる状況じゃないなと感じていました。
なので、私はまず「こうしたらいいよ」とは言わず(①保留)、息子が泣いたり怒ったりする様子を受け止めながら待ちました。(②受容)
そして、「そうだよね。雨は嫌だよね」と声をかけながら、息子が何を一番嫌がっているのかを考えました。
✔︎雨という天気そのものが嫌なのか。
✔︎濡れることが嫌なのか。
✔︎いつ止むか分からないことが不安なのか。
✔︎初めての状況だから怖いのか。
正直に言うと、息子が落ち着くのを待っている間、私は内心かなり焦っていました。
『本当に落ち着けるかな。
このまま動物園を楽しめずに帰ることになったらどうしよう。』
頭の中では何度もそんな不安が浮かんでいました。
それでも「待とう」と決めて、40分ほど経った頃、少しずつ落ち着いてきた息子が自分から話してくれました。
「雨が苦手だよ」
「靴が濡れちゃう。ビチャビチャになっちゃう」
ようやく息子が一番心配していたことが分かりました。(③理解)
私は、
「そうだね。靴がビチャビチャになったら気持ち悪いもんね」
「心配だったよね」
と気持ちに共感しました。(④共感)
そしてここで初めて、
「服の着替えは持ってきたよ」
「乾いた靴も持ってきているから替えられるよ」
と伝えることに。
すると息子の表情が変わりました。
そして、「大丈夫か。。。雨だけど行こう。」と自分から話したのです。
雨が少し弱くなったタイミングで傘をさし、自分の足で歩き始めました。
大好きな爬虫類館では、
「ナイルワニ!」
「ガビアル!」
「トッケイヤモリ!」
と大興奮。
やがて傘がいらないほど雨も弱まり、見たかった動物をすべて見ることができました。
西園と東園を何度も往復できるほど歩いた息子を見ながら、好きなものを見たい気持ちは、こんなにも大きな力になるんだと感じました。

「大丈夫だった」というの記憶が自閉症の息子の次のやってみたいにつながった
帰りの新幹線でも、帰宅してからも、息子はスマートフォンで撮った写真を何度も見返して、
「ハシビロコウいたね」
と見た動物のことをうれしそうに話していました。
不思議なことに、あれほど泣いて怒っていた雨の話は全く出てきません。
そして後日、
「次は〇〇水族館に行きたい」
と次のお出かけ先まで伝えてくれました。
さらに、私が車にする?新幹線にする?と聞くと「新幹線!」と。
以前は「新幹線に乗りたくない」と言っていた息子です。
今回の旅行で息子の中に残ったのは、「雨が降って大変だった」という記憶だけではなく、
雨だったけれど大丈夫だった
困ったけれど最後まで楽しめた
という記憶だったのかもしれません。
回復体験を増やすために、わざと失敗させる必要はありません。
親としての本音を言えば、できることなら癇癪は起こしてほしくありませんし、トラブルなく、楽しく過ごせたら一番いい。
けれど、予想外の出来事は、これからも自然に起こってしまいます。
だからこそ、息子の前からすべての失敗やトラブルを取り除くのではなく、困ったことが起きた時には一緒に「大丈夫だった、なんとかなった」まで戻ってこられる経験を増やしてあげたいと思っています。
今回の経験が親である私にとっても一つの成功体験になったのだと思います。
そして息子にとって、
新幹線に乗れたこと。
ゲリラ豪雨に遭ったこと。
癇癪を起こしたこと。
そして、自分で「大丈夫。行こう。」と歩き出せたこと。
全部ひっくるめて、息子の世界をまたひとつ広げてくれた経験になりました。
これからも息子の「行きたい」「やってみたい」を諦めず、予想外の出来事が起きても親子で立ち直りながら、いろいろな景色を見に行きたいと思います。

発達科学コミュニケーション
東原あや






